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森を旅する声

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ある森での、ある出来ごと


新年のごあいさつに、
「きらめく荒星」という曲についてふれましたが、
この小曲に秘められた、「声の旅」の話しを書こうと思います。
舞台はアメリカ。数年前のおはなし・・・

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「きらめく荒星」by 蜂谷真紀

きらめく あらぼし
声をだせば、鳥になって
ひとりの 夜には
いちばん やさしい
ひびきは 翼を
さらに遠く いざなう
もう帰ろう 帰ろう
あたたかい あしたへ

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《森を旅する声》

声って身体の中に楽器がある。
楽器を持ち歩かなくてもよいし、
いつでもどこでも声をだせる。
でも、そんな当たり前を不思議におもうことがある。

自分の生の声を、客観的にきくことが一生できないのも不思議だ。
わたしの声が、
空間を旅して、聴き手の耳を旅して、私のところに帰ってくる・・・
なぜか解らないけど、歌や声に「短い旅」を感じることがよくある。

だから「声の旅」は、星にだってすぐ行ける気がする!


でも現実には・・・
音には音速が存在し、届く距離にも限界があります。
星に向かって歌っても、星は私の声をきけません。
さて?、実際のところ、
声はどこまで飛んでゆけるのかなぁ?


数年前、アメリカの広大な森林をトレッキング中のこと。
急に視界がひらけて、景色のよい森に出た。



そこは人の気配どころか、
鳥や獣の声すら聞こえぬ不思議な森だった。
湖が干上がったあとなのか、ややすり鉢状になっている。
その森だけ、早い眠りにつこうとしているようでもあり、
風の音もない。ほぼ無音だ。


ふと、声を思いっきり出したくなった!


どんな残響が聞こえるかなあ?
こだまがかえってくるかなあ?

思いっきり声をだした!!!

するとどうでしょう・・・
声は、森にすいこまれでゆきました。
残響もなく、こだまも帰ってきません。

声は、すぽん・・・と、森に飲み込まれたのです!


え・・・なにこのかんじ?


もう一度、試した。
やはり、すぽん、と・・・飲み込まれました。
どこかに潜む、けものや鳥、虫たちに、私の声は届いたのでしょうか?
でも答えるものもありません。
森は無音のままです。


ある新鮮な感覚に、ハッとした。


自分の声を聴いたのは、私だけなのだ・・・
なんのタイムラグもなく、
リアルタイムで、体内の声を聴いたのだ・・・ と。


へいぜい、相棒(声)は
会場や空間の箱に反射して、音速の波にのって、
私の身体にかえってくる。
そのタイムラグが残響としてきこえ、場の空気感となってきこえる。
それぞれの空間でブーメランみたいに相棒(声)を無意識にうけとめている。
うけとめる感覚も、場によって違う。

でも反響が全くない森では、相棒は、自分をはなれ、
どこか遠くにいって、もどってこない。
一心同体の、自分と声が、
「はなればなれになっちゃう」感じがしたのだ。。。


「無音の森」で何度も声をだしてみて解ったことがある。
私は声をだした瞬間に、体内で相棒を抱きしめていた。
この森では、野鳥の声も吸い込まれていくのかもしれない。

ライヴ会場という「箱」のなかで声を出しているとそれは実感しにくい。
PAを使えば、もっと実感しにくい。

広大な森、宇宙の中での声の旅は基本、独り旅なのだ。
でも、そこには、沢山の一人旅があって、
共演者あらば、さらに色んな旅ができる。
でも「相棒との独り旅」が全てのもとになっているんだなと・・・


「きらめく荒星」の短い歌詞には、
相棒(声)とわたしの感覚的な関係・・・
そんな思いが秘められています。


無音の森」に出会う道すがらに見たもの
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廃業した農家をぬけると

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川遊びしている家族を見かけた


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でもそのあと、だれにも出会わない

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でも植物はにぎやか
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あかくて、あおくて
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白いカップルもいて

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水も光もあって

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湿地もあって

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モスもあって

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モスモスだらけで

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北米にサル!?、いや、これもモスで・・・

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巨木もモスだらけで

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人に会わないけど、木の兄弟は楽しげで

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乾燥した場所の巨木は、雷で割れても平気そうで



大木
大木
大木
巨人の森をあるいていたら・・・


急に視界がひらけた!
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「無音の森」があった。
ここで、この不思議な体験をした。

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30分も「無音の森」にいたかもしれない。
もう声と一緒に帰ろう・・・
ここで足と顔を洗って

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「会いたくないお友達」も森にいるが・・・

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森で唯一あったのはこの男性。
彼の方から急に声をかけてきた。
ちょっとびっくりしたけど、
この「よき人」は、森と同化してるみたいな不思議な人で
「また会おう」とつげ、別の道にすすんだ。
「よき人」は、とても背が高く、驚くほど軽装で、
すごい早さで、音もなく森に消えていった。
(巨木の精だったのか?!)


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登山口に出ると、車が四台
人はいたんだ・・・でも巨人の森は広い

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明るいうちに山小屋にたどりつけた。
夜中にフクロウの声がしそうで、ワクワクしてたのに、
この夜はコロっと寝てしまった。


「森を旅する声」



蜂谷真紀
はちやまき










by hachiyamaki_diary | 2017-01-02 01:22 | 福中文庫(作文)

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by 蜂谷真紀 / Maki Hachiya