宮古島の4月
2002年 04月 10日
(2002年、4月某日)
「宮古島の4月」
キリギリスの仲間 ハイビスカスと一緒に揺れる
「海って青いんだなあ・・・」宮古島。
沖縄の更に先、もう台湾の近くです。
空港に降り立てば夏。
のどかな風景が広がり、宮古牛がのんびりと草を食んでいる。民家の軒先には色とりどりの花が咲き乱れ、見慣れぬ蝶々がヒラリヒラリと舞い踊る。
‥‥‥ここは何処?‥‥‥
デイゴの花が青空に向かって深紅を競いあっている。
赤、青、黄、緑......まるで合成写真みたいな原色の世界に、なかなか目が慣れて来ない。強烈な日差しに目がクラクラしてくる。
思わずサングラスを取りだそうとしたが、そのままの色を見たいので、やめた。
つばの広い帽子を被る。
ハイビスカスの雌しべに黄緑色のキリギリスがしがみついている。
長い触覚に黄色い花粉をいっぱい付けて、ゆっくりと交差させている。風があまい。
ハイビスカスがゆっくり揺れる。キリギリスもゆっくり揺れる。
サトウキビ畑からは湿った緑の匂い。
スプリンクラーがクルクル回る。あの下に行って、自分も服をびしょびしょに濡らしたくなる。タバコの花を初めて見た。
薄ピンク色の花が行儀よく延々と並んで可愛らしかった。
タバコの印象が少し変わった。
ガーガーガーガー・・・・人工音。
真っ黒に日焼けした麦わら帽のおじさんが、耕耘機を操る。
もっと南の石垣島では年に3回も米が取れるという。
耕耘機のすぐ後を、アマサギが20羽程付いて歩く。
風になびく亜麻色の飾り羽根が品よく美しい。そのぶん、掘り起こされたご馳走に我先とありつこうとする姿が滑稽だ。
ピーヨ!ピーヨ!・・・・鋭い声はヒヨドリ。キジバトもやたら多い。
この島は彼らにとって楽園のはず。
どことなく、本土の種より羽根色が暗色で小柄だ。亜種なのかな?
彼らの伸びやかな姿を見ていると、わざわざ東京で暮らす野鳥が、気の毒にも物好きにも思えた。
それは私も一緒かあ・・・
アマサギが耕耘機についてあるく。おじさんは気にしないようだ
時間が妙にゆっくり流れていて、違和感を感じる。
私の体内時計は、なかなかその流れに「着いていけない」
自分の秒針にブレーキをかけるのに一時間はかかったかもしれない。
ブレーキかけていたら、少し疲れた。
なさけない。そして、やっとこさ時計の歩みを抑えたら、この島の時間の流れが気持ち良くなってきた。
すると・・・近くなった。
ぐんと近くなった。
「北緯◎度、東経◎度、
宮古島の南東◎◎キロの海上に大型の台風◎号が・・・」
あの懐かしいラジオ短波放送の声みたいにはるか遠くに感じていた不思議の島が、急にグンと近くなった。
「今、あの島にいるんだなあ・・・」
その瞬間にやはり「あの感じ」が来た。
「また知ってしまうのか・・・」
少し寂しくなった。
‥‥‥いつもそうなのだ。
私は初めての土地を旅をすると、すごくワクワクする反面、何故だかちょっと寂しくなる。きっと、子供の頃から空想していた「絵巻」が、現実を前に、ひとまずそこで終わっちゃうからなんでしょうけど、真相は謎です。
空想絵巻よさようなら~。
真相はどうあれ、本物に接した後は、いつも一から新しい絵巻が始まる感じがするのです。脳内書き直し。編集し直し。消去に追加。挿し絵の変更。
ですから、旅先では自然と好奇心がどん欲になります。
多分、空想以上のイメージを構築したいという衝動にかられるからでしょう。
全身のアンテナが全開になり、色んな角度からその土地を感じようとします。
いわゆる観光地ではなく・・・。
空想以下の希薄なイメージを持って帰るのが耐えられない私。
翌日、12人乗りの船に乗った。
外海は思ったより荒れた。
うねりを全身でとらえ、南の海を感じ取る。
なんて気持ちいいんだろう。
カツオドリが上空を悠々と横切って行く。
年に一度の大潮の海に日が射し始めた。
目の前が突然青くなった。どんどん青くなった。
浅瀬に乗り上げ、うち捨てられた難破船を横目に見る。
きっと色とりどりの魚が群れているんだろう。
さらにもっとサンゴ礁の浅瀬近づくと「OUT OF 空想」だった・・・
見たこともない海の色。グラデーション。
海面に虹があった。
‥‥‥ここは何処?‥‥‥
さて、羽田上空から見る東京湾は海の色じゃなかった。
花や蝶もどこへやら?。
‥‥‥ここは何処?‥‥‥
高度を下げる機内で
宮古の人達の屈託の無い笑顔と、
カラオケ店の、夜毎の爆音を思い出し、
私は「空想以上」にほくそ笑んだ。
海の色
by hachiyamaki_diary
| 2002-04-10 21:09
| 福中文庫(作文)