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暴力シャンデリア

毎日の様にうなされる夢より....おひとつどうぞ。

「暴力シャンデリア」

私はヨーロッパのどこかの町に越して来たばかりだった。
がらんどうな部屋に、未開封のダンボールが転がったまま。
前の住人が使っていたと思しき古い家具が置いたままになっている。
それらが無ければ まるで倉庫のようでもある。

新居は、築100年は経っていそうなアパートの3階。
昼というのに、部屋はどうにも薄暗い。
えらく天井の高い、四角い部屋の一辺に、
えらく縦長の窓が、等間隔に3つ並んでいる。
それぞれの窓の左右に、濃緑色のぶ厚いカーテンがきちんと束ねてあった。

その夜は、なかなか寝付けなかった。
疲れていた上、古い建物特有の匂いに馴染めなかったからだ。

翌早朝、玄関のチャイムが鳴った。 

眠い目をこすりつつ、覗き穴から覗こうとするが、
どうも目がかすれて良くみえない。。。。

「こんな早く...大家さんかな?..まあ、いいや.....」
私は、重たいドアを空けてしまった。

‥‥‥これがマチガイだった‥‥‥

問答無用!
「STAFF」と書いてあるカードを胸に下げた人たちが、
10人、20人、30人.......ズカズカと上がり込んで来た!
あっという間に、新居は人人人...声声声.....でごったがえした。

パジャマのままぼう然と立ちつくす私をよそに、
「ハート型の電飾付きメガネ(ピンク色)」をかけた
ロンドンアンダーカルチャー的ヘアの、太った白人女性が
ドッカ!....と座って煙草を吸い始めた。
私は、ソファが片方だけ極端に深く沈んでいるのをボンヤリ眺めた。
彼女が煙草の煙を勢い良く吸い込むたび、
眼鏡の電飾が、ピンクとグリーン交互にせわしなく点滅した。
彼女はかなりイライラしている様子だった。

ふと、回りを見ると、

打合わせを始める人達。。。。
携帯電話で慌ただしく連絡を取りあう男性。。。
私のワインを勝手に飲んでいる人たち。。。
洗面所で歯を磨く人。。。
トイレを流す音。。。

「ち、ちょっとアンタら! 一体ダレやねん?!」
「......ってか...あの~、何してるんですかあ~?」


....と礼儀正しく質問する間もなく。。。

部屋に巨大なハイビジョンモニターが運び込まれた。
「STAFF」は皆、汗だくだ。
彼らは、昨日繋いだばかりの私のオーディオ配線をひっこぬき、
何本ものぶっといケーブルを、手際良く部屋中に回し始めた。 

「はあ...???」
 
この際、面白そうだから見物することにした。 

モニターに「テスト映像」が飛び込んできた。
電飾ピンク眼鏡の女性は、生中継番組のディレクターだった。     

「TV中継...?何?....シャンデリア?」 

聞けばこのアパートの最上階にホールがあり、
そこに貴重なシャンデリアがあるんだと言う。
今日は、10年に一度の「シャンデリア御開帳の日」なんだそうだ。
そして、ついでに言えば、
大家の承諾で、うちが中継基地になったのだという!

「・・・って、何も聞いてないんですけど・・・」

早速らせん階段を駆け上がり「最上階のホール」に行ってみた。
そこは7階。ホール天井はガラス製のドームになっており、明るいが蒸し熱い。
既に、沢山の人々が見物に集まっていた。

見物人は皆、黒タキシード、蝶ネクタイ、シルクハット姿。
クラシカルに正装している。えらい時代錯誤な感じ。
何故か「荒俣猛さん」も、見物人の中にいた。
荒俣氏も服はキメていたが、足下は「水色の健康サンダル」であった。

‥‥‥正午。

楽隊の「アラビックファンファーレ」が轟いた!
変な旋律だ! 
お披露目の時間だ! 

「ガリガリガリガリ...ガガガ...」

なんじゃ?!このスンゴイ音は? 

驚いた。。。。

なんと、ドーム型天井は、野球場の如く左右に開くんである!
それも「手動」で開けちゃう。。。。
左右、50人程の人足に別れ、一斉に綱を引いている!

「ギギギ...ガリガリガリ...キイイイイイイイイイ~~!!」

うわあ、耳をつんざくオンボロ摩擦音!!
ガラスが落ちて来やしないか不安になって来たその時、
薄曇りの空をバックに
「巨大シャンデリア」が、頭上に姿を現し始めた!

(はあああ・・・・・・???)

アパート屋上に塔のごとく鎮座していた巨大シャンデリア。
この記念すべき日に、「降りてきた」のだ!
なんかよく解らんが、
ドームを開けると「降りてくる」大掛かりなカラクリ。

ほどなくして、
シャンデリアはとうとう全貌を現した。

(うあ~、デッカイ!高さが5mは有る!)

ジャラン...ジャラン...なんか不安定。アヤウイ。
それは、総スワロフスキー製だった。
透明薄褐色。細部にまで手をかけまくった、コテコテの装飾。
一つ一つのパーツにまで、細かい仕事がしてある。
で、シャンデリア上部には2mもある「獅子の頭」のデコレーション。 
勿論これもスワロフスキー製だ。
もはや、美しいというより.....グロテスク。

(おや?) 

今度は「獅子の頭」がゆっくり揺れはじめた。

古くからの慣習でシャンデリアを12回大きく「揺らす」んだそうだ。
獅子のタテガミに見立てた無数の長い装飾が、派手に揺れる。
ジャララ~ン...ジャララ~ン...
何人もの男達が、針金状の吊り具6本を操り、
まるでクラゲの様に揺り動かしている。

(何トンあるのかな? あんな細い吊り具で大丈夫か!?)

ジャララ~~~ンコ...ジャララ~~ンコ~
       
回数ごとに揺れは激しくなり、
10回を過ぎたあたりから揺れは最大に!

うわあ、今にも壊れそう!

ガッシャリ~~~ンコ....カガガッシャリン~~~コ~

「ウアアアアアアア~!危ない!」 



ついに、シャンデリアから2cm~5cmくらいのパーツがいくつも外れ、
パラパラと雨の様に降ってきた。逆光を浴びて美しい...けど危ない!
カッシャーン、パッキーン....透明な破壊音が響き渡る。
美しい物が壊れゆく光景。ゾクゾクした。

(ふう...12回....お、おわったあ.....
なんて凶暴なシャンデリヤ...
こ...これは世界一暴力的なシャンデリア!)


まだ揺れが収まらぬうち、一人の男性が「駆け出した」
続いて、他の紳士淑女もダーッとホール中心に向かって走った。
みな夢中になって、床に落ちたシャンデリアのパーツを拾い集めているぞ?!
男はシルクハットの中に、女はドレスの胸元に....
スワロフスキーの輝きを楽しげに収めている。

拾ったパーツを愛おしそうに触りながら、一人の紳士が語った。。。
「このパーツには魔力が存在するのです」
そして、タキシードのポケットから古い懐中時計を取り出した。
「これは、私の祖父が50年前のシャンデリア開帳で拾ったパーツを、ですな、
文字盤に埋め込んだ特注の時計でして...、祖父は...、云々」


(そうかあ....
このシャンデリアは原形が無くなるまで、これからも揺れ続けるのか...。)


連れ合いの淑女も語った。
「この指環は、結婚前の母がパーツから作ったものよ。その後、彼女はね...フフフ...」

彼女の夢の様な話しを聞いている最中、私はハッ!と我に返った。


あ...ヤバイ..私ったら...
パジャマのままでした~〜〜〜 


回りは全員正装。
もう、あまりに恥ずかし過ぎたので、
私は腹を決め、逆にパジャマ姿をアピールする行動に出た。

私は突然走り出し、床に滑り込み、
ホールの真ん中に、大の字になって寝っ転がった!
だって、パジャマは寝姿が一番!

「ヘッヘッ~!!! なかなか気持ちイイじゃない!」 

(私の異様な笑いはテレビ中継に丸写りだった)

その時だ。。。。

頭上のシャンデリアから、大きなパーツが一つ落ちてきた。
私はそれを、忍者ばりに「3回転して」かわした。
「カッシャ~~ンンン.....」透明な残響をのこし、
ホールはシーンと静まり帰った。

次に、パジャマの女は急にピョン!と起き上がり、
その、落ちて来たパーツをゆっくりと拾い、
近くにいた男の子に、ニコリと手渡した。

すると。。。。一斉に、拍手が起こった。
蒸し暑いドーム内に、拍手と喝采がブワンブワンと回った。


みんな私を、
テレビ局に雇われた「東洋人の道化」と思ったみたい。






maki hachiya
蜂谷真紀
by hachiyamaki_diary | 2011-04-10 21:08 | 福中文庫(作文)

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by 蜂谷真紀 / Maki Hachiya