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白玉の恐怖

今回は恐ろしい「白玉」のお話をひとつ。
といっても一つや二つの白玉では有りませぬ。
5万もの白玉のお話。
これは◎◎氏に起こった「恐怖の体験談」です。
まずは事の起こりを知らせる彼のメールから。



★「蜂谷真紀様」from ◎◎氏

先日、世にも恐ろしい体験をしました。
今までの人生で経験しなかった出来事です。
 
1年前 白いクッションを買いました。
白い布の中に中空のプラスチックが沢山入っている、と思っていたのですが...。
ある日 床に白い玉がこぼれているではありませんか。
発泡スチロールの玉で直径3ミリくらいです。
それがクッションの中身だったのです。
布がほつれて中身がでていました。
仕方ないので捨てるため中身を取りだすことにしました。
布は可燃ゴミ、発泡スチロールは不燃ゴミですからね。
分別しようとしたのです。それが大失敗でした。
 
中には2ミリ、3ミリ、5ミリの白い玉が数万も入っていました。
クッションの長さを仮に50センチと見積もると容積は0.5×0.5×0.5=0.125立方メートル。
玉を仮に直径3ミリとすると0.003×0.003×0.003=0.0000027...だから0.125/0.0000027=46296 
なんと5万個近くの玉が入っている計算になります。
それをゴミ袋に移そうとしました。

うまく入りません。
玉は逃げ出し舞い上がります。
重量がとても軽い上に、静電気が生じて重力を無視した動きをするのです。
生き物のように動きまわり、袋の口からあふれ出し小さな穴から流れ出し、手にくっつき、腕をはい上がり、床をすべりはるか遠くまで行ってしまいます。

掃除機で吸おうとしました。
ところが掃除機は体積のあるゴミには対応していません。
たちまち集塵袋が一杯となりホースにつまり吸い込み口から逆に溢れ出します。
掃除機は加熱し必死で吸い込もうとしますが、ぎっしり詰まった玉に空気の流れはとぎれ、用をなしません。
集塵袋を空けても空けても、あっという間に詰まってしまいます。
生き物の様な動きだけでも封じようと、静電気を押さえるため水をかけました。
静電気は弱まりりました。 
しかし今度は粘着力を生じてくっつき合い、重く重くなってゆきます。

結局、手で少しづつすくい上げる以外に手はありませんでした。
数時間もかかってしまいました。それでも玉はゴミ袋の小さな穴からあふれ出そうと虎視眈々と狙っています。
まるで意志を持つ無数の小さな生き物の群れに遭遇したようです。
人間の感性も言葉も通じない無敵の生物です。
形而上的な不安を引き起こす理解不能の物体です。

☆「蜂谷真紀の返事」:◎◎さま

白玉との格闘お疲れさまでした。 
クッションの中に、世にも恐ろしい5万の侵略者が入っていたとは。
最終的に勝利したものの、多勢に無勢でしたね。
貴方は彼らと一年間も生活を共にしていたわけですか。ははは。
彼らは封じ込められてる事に不満でも有ったんでしょうか。
耳を澄ませば、何か言っていたのかも知れませんぞ。
小さなプラスチック片にままならぬ意志?を感じた経験は、残念ながら私にはまだ有りません。-------中略--------

とにかく、その恐怖の白い玉軍団は、心ある人によって、目出度く分別ゴミに分けられたのですから、数ヶ月後には、形を変えて新たな活動を開始するわけです。
変身しても、ギシギシ不満を言ってそうで、コワイです。
クッションの詰め物になる前は何だったのでしょう? 
さらにその前は・・・・? 

素朴な疑問なんだけど、ど~やって作ってるの?そのクッション。 
ま、使ってるうちに静電気帯びるんだろうけれど。

★「◎◎氏の感想」

...ところで白玉。本当に怖いんだよ。

ソラリスを書いたレムのSFに「無敵」というのがあって、他の惑星でイナゴのような機械のような無数の敵に遭遇するというものですが、まさにあれ。

宇宙船にぶつかって穴をあけ、機械をぼろぼろにしてゆく。
なぜぶつかってくるのかわからない。
宇宙で遭遇した「敵」は 感情を持たない存在で、コミュニケートの方法もない。
人類とは何の接点もない存在です。
そもそも相手には攻撃の意志すらないかもしれないのに、じりじりと探検隊を追いつめてゆく。

哲学者ヴィトゲンシュタインが看破してますが、人間は社会制度を共有している存在としか心を通わせられないのです。
おそらく鳥や虫とさえいくぶんコミュニケートできるのは、遺伝子を共有し、生きる、食べる、繁殖するといった行動や価値を共有しているからでしょう。

玉がうらみで行動しているのなら、まだ理解の余地はあるでしょう。
しかし そうじゃないんだよね。
だってぎしぎし言ってなかったもん! 
あるのは狭いところから溢れようとする行動のみ。
袋から掃除機からホースからふわーっと溢れて、エントロピーに従って拡散してゆくのです。
昨日も冷蔵庫の下からまた現れた。
そう、戦いはまだ終わっていないのです。

玉に意志をみるか、「無敵」をみるか、ここに真紀さんと私の大きな差がありそうですね。
もしかして自分がより怖いものを見ているのかもしれぬ。
そうだとすれば、玉は自分の心の反映ということになるのだが。きわめて哲学的な問題に踏み込んでゆくようです。

しかし、確かにあのクッション、どこで作ってるのか?
工場の中はどんな修羅場なのか? 
次々に従業員が倒れていったりして。 
きっと巨大な掃除機があるのでしょうね。     

☆「蜂谷真紀です」

ところで、その白玉もうないんですか? 
忘れたころに「コロリ....」と出てきたら捕獲しといて下さい。
by hachiyamaki_diary | 2001-10-07 00:00 | 福中文庫(作文)

ふくちう日誌


by 蜂谷真紀 / Maki Hachiya